株式会社ズコーシャのELTRES導入事例

日本国内には地方公共団体や農協などが管理・運営する公共牧場(農家から預かった仔牛の飼養・繁殖等を公益的・集団的に行う牧場)が数多くあります。とりわけその数が多いのが、農業先進地の北海道です。北海道帯広市に本社・総合科学研究所を置く株式会社ズコーシャは、公共牧場の放牧牛をIoT技術で管理する「放牧管理システム」を開発。同システムの通信にはELTRESが採用されています。公共牧場における放牧牛飼養(しよう)の課題とは何なのか。システムの開発経緯、ELTRES採用の理由などとともに、同社IT事業部の山本倫之さん(技術顧問)、山下直樹さん(営業担当次長)にお話を伺いました。


帯広の総合コンサルタント会社

——ズコーシャの主な事業内容をご紹介ください。

山本

ズコーシャは北海道帯広市に拠点を置く総合コンサルタント会社です。今から60年ほど前の1959年、測量会社・北海道測量図工社として創業しました。創業してしばらく測量業もしくは建設コンサルタントとして、主に北海道を商圏としながら、官庁・自治体の建設工事・環境調査など公共事業における上流部分の事業を生業としていました。

その後は環境、農業、まちづくりに事業の幅を広げ、昨今は我々が担うIT事業も重要な事業の柱となっています。具体的にはデータセンター事業、ネットワークインフラ設計・構築、アウトソーシング事業、自治体ソリューション、民間企業向け各種オーダーシステム設計・開発、一般企業向けソリューションなどです。

——御社で提供する「放牧管理システム」の概要についてご紹介ください。

山本

当社が開発した放牧管理システムは、公共牧場の放牧牛1頭1頭に装着した首輪型センサーから牛の位置情報・活動情報等を取得した後、クラウドサーバでデータの解析・演算処理を行い、牛の“発情兆候”などを検出します。検出した結果は、システムの管理画面(アプリケーション)を通して遠隔地にいる牧場職員が確認できます。

具体的には、牛の位置および移動履歴の表示、発情および疾病等の異常通知などの機能を提供。クラウドサーバへのデータ通信にはELTRESを採用しています。

同様のシステムには競合もおりますが、発情兆候を検出できるところまで目途がついたのは本システムが最初であると自負しています。

——牛装着センサーの詳細、またセンシングの仕組みについて教えてください。

山下

株式会社アイ・オー・データ機器と共同開発したセンサー(型番「UD-GS4」)は、サイズ91×158×39ミリ、重量は約250g(電池除く)です。

センシングの仕組みについては、ELTRESのGNSS受信で取得した時刻情報・牛の位置情報とセンサーが測定した活動量をクラウドサーバ上で解析して牛の発情状態をつかみとります。発情状態にある雌牛というのは落ち着きがなくなり、普段と異なる動きをするのですが、それを検出しています。


慢性的な農業従事者不足の問題

——なぜ本システムを開発したのでしょうか。

山本

北海道には地方公共団体や農協などが管理・運営し、農家から預かった仔牛の飼養・繁殖等を公益的・集団的に行う公共牧場が数多く点在します。そうした公共牧場の職員にとって特に負担の大きい業務が牛の繁殖、すなわち発情発見から始まる種付け作業です。

なにしろ1つの牧場で飼養される牛の数は数百〜千頭ほど。職員は毎日広大な放牧地を見回りながら、牛1頭1頭の発育状態・健康状態、そして発情発現の有無を目視で確認しています。1人あたり100頭以上を担当しなければいけない牧場も少なくありません。

山下

特に北海道では、農業・畜産業の人手不足が深刻な社会課題です。それを背景に、放牧牛の管理を代替できるテクノロジーの開発が常日頃から求められていました。当社では以前より公共牧場の預託牛を管理するシステムを展開していましたので、そこで培ってきた経験にIoT技術を加えることによって公共牧場の省力化に寄与できる管理システムを開発できると考えました。

——牛舎で牛を管理している農家ではすでにIoT技術が進んでいるのでしょうか?

山本

はい。同じ牛の飼養でも牛舎で管理する舎飼い(しゃがい)ではすでに発情検出機などを取り入れたオートメーション化が進んでいます。しかし放牧ではテクノロジーの活用が遅れていました。

広大な牧場で放牧された牛を目視で確認していくとなるとそれだけで重労働です。また牛の状態を見極める熟練度も求められます。しかし職員の高齢化は本当に深刻で、新たな担い手もなかなか入ってこない状態……。放牧牛管理の効率化・自動化の実現により、職員の負担軽減、熟練度の低減、就労者の間口拡大を同時にかなえられると考えています。


市営牧場放牧地で実証実験を実施

——プロジェクト開始から現在までのプロセスを教えてください。

山本

当初は牛舎向けに開発したIoT技術のシステムで用いた通信規格で試していたのですが、やはり10km四方ほどの面積を管理しなければならない放牧酪農にはなかなか適用できず、思うような通信性能を上げられずにいました。

そうしたなか2017〜18年頃に始まったLPWA通信規格の商用化の流れに乗り、その当時に行われていたソニーグループのPoCプログラム(現在の「ELTRES実証実験プログラム」)にたどり着きました。

2018年には、牛の行動研究を専門とする岩手大学農学部共同獣医学科の岡田啓司教授に参画していただくことなり、プロジェクトが本格始動しました。その後、ソニーセミコンダクタソリューションズからの紹介もあり、アイ・オー・データ機器との共同開発がスタート。2020年7〜10月の間には釧路市様のご協力のもと、通信テストを含めた市営牧場放牧地での実証実験を実施しています。

——これまでの反応、また今後の予定については?

山本

2020年12月に本システムに関するリリースを発表させていただきましたが、すでにいくつかの自治体からの問い合わせがありました。新聞などで本報道をご覧になった方からは期待の声もいただいています。今年(2021年)の放牧期間にも再度実証実験を行う予定ですが、その後は2021年中の商用化を目指しています。ゆくゆくは同じ課題を抱える海外の牧場への展開も見据えています。


広大な牧場のカバーに適合

——改めて、ELTRESを採用いただいた理由はどんな点でしょうか。

山本

基地局やネットワークの構築・運用が不要であったり、あるいはGPSやGNSSが標準装備されていたりするなど、パブリックなサービス展開をされている点が最も大きかったと思います。

ここまで申し上げてきた通り、管理の対象となる放牧牛は大きな牧場に広がって飼養されるため、通信のカバーエリアは重要なポイントでした。ELTRESの長距離伝送能力は広大な牧場をカバーするのに適しています。これまでの実証実験では何度となく通信テストを行っていますが、ELTRESは十分に実用化可能な通信性能を満たしてくれていますし、今後のELTRESのエリア拡大にも期待しています。

山下

もうひとつ付け加えるなら、低消費電力であることも重要なポイントでした。放牧牛はだいたい5〜10月の期間に放牧されるのですが、それだけの期間、電池交換をせずにセンシングと通信を作動させるには電力の低消費が必須要件です。実際に開発したUD-GS4は単2形アルカリ乾電池4本で、それだけの放牧期間にわたる長期利用を可能としています。

——すでに農業にまつわる課題についてお伺いしましたが、本システムの展開により、どのような社会変化を期待していますか。

山本

繰り返しになりますが、公共牧場が今後も存続していくためには人材確保が欠かせません。酪農と聞くとどうしても、いわゆる「3K」と呼ばれるような過酷な労働環境を連想されがちです。実際に「1,000頭の放牧牛を1頭1頭目視で管理する」という仕事は少々過酷かもしれません。しかし、そこに「センシングで一気に全頭を管理できる」というスマート農業の価値が加われば、ネガティブなイメージが一掃されるかもしれません。省力化による人材確保に貢献したいという気持ちが一番にあります。

山下

一方で、別の視点では「アニマルウェルフェア(Animal Welfare)」にも貢献できると考えています。アニマルウェルフェアとはすなわち、牛のような家畜が誕生してから死を迎えるまでの間、できるだけストレスを抑制し健康的な生活を送れるよう飼育するあり方のことです。牛舎のような狭い場所での管理は家畜側にとって必ずしもよい環境とは言えません。自然のなかで自由に動き回れる「放牧」を人間側が行いやすくするシステムは、動物福祉にもつながっていくと思っています。

——最後に、ELTRESの汎用性についてご意見を伺わせてください。

山本

ELTRESのパブリック基地局は、ここ帯広市や周辺地域もカバーされているため、他にさまざまな活用方法があると考えています。特に我々のような地場の企業は「地方ならでは」と言えるような課題の解決に貢献していきたいという思いがあります。今後は公共牧場以外での活用も検討していきたいです。

株式会社ズコーシャ(https://zukosha.co.jp/)IT事業部山本倫之さん(技術顧問)、山下直樹さん(営業担当次長)


最後に

ELTRESは安定通信・長距離伝送・低消費電力・高速移動体対応・GNSS標準搭載の特長を生かして様々な業界でご活用いただいております。

【活用例】
・物流:移動車輛の監視
・環境モニタリング:溜池の水位監視
・インフラ監視:街路灯の電力監視と設置位置管理
・農業・畜産:放牧牛のトラッキング
・人の安全みまもり:CO2センサで「3密」を検知
・スポーツトラッキング:アドベンチャーレースでのトラッキング
・IoTプラットフォーム:温湿度、不快指数、安全管理、物流管理、獣害被害対策、見守り等

「興味がある」から「実際に活用方法を検討している」までどの段階でも構いません、お客様のご希望に合わせてお話しさせていただきます。
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