ソニーのLPWA ELTRESの長距離・安定通信のための技術 ~受信局を作るテクノロジー編~

IoTネットワーク向けLPWAの無線通信規格であるELTRES。
ELTRESの特長の一つである「長距離・安定通信」により、送信端末からの電波の出力は、わずか20mWでありながら、東京スカイツリーを含めた数局の受信局で東京エリア全体をカバーできます。ELTRES開発チームブログの2回目は、受信局におけるソニーならではの技術を紹介します


受信局をつくる難しさ

ELTRESは送信端末から受信局に向けて上り一方向通信をしています。一方向であることにより、端末は待機電力が不要となり低消費電力にできるとともに、下り方向の電波資源を使用しないので、その分、多くの端末をつなぐことができ、回線コストを下げられるというメリットがあります。今回、1つの受信局で多くの端末を接続することの難しさと技術的な対応策について紹介したいと思います。

ELTRESは、長距離安定通信ですが、電波が長距離を飛ぶということは、上記の図で水色の円が非常に広いことを表しており、1つの受信局に対して数多くの送信端末から電波が飛んでくるということになります。電波というものは、距離が離れると減衰していくので、受信局近くの端末と遠くの端末では、受信局の電波の受信電力に大きな差があります。この電力の異なる電波を受けるのは非常に難しいのです。

これは、日常生活の音波で例えると、次のような感じです。

  • 野球の9回裏同点で、あと1点を争うギリギリの攻防の中、周囲に応援団の声やブラスバンドの応援曲が鳴り響いている状況で隣の友達との会話を聞き取ること
  • 屋外ライブイベントの会場で、目の前でバンドが演奏している中、隣の会場から漏れてくる音楽を聴くこと

このような小さな音量と大きな音量が同時に存在すると、大きな音量で小さな音量がかき消されてしまいます。小さな音量を聞き取ることを想像してください。難しいと思いませんか?

受信局では、通信距離が長くなり、小さくなった受信信号と至近距離にある大きな受信信号を同時に受信することになります。このような受信環境に対応するために、ソニーでは、テレビチューナーで培った技術をELTRESの受信局に応用しています。


テレビチューナーで培った技術

実験室などの理想的な環境で、1つのテレビ局の電波を送受信するのは簡単です。ただ現実には、テレビ放送以外にスマートフォンやラジオなど、様々な電波が飛び交っています。さらにテレビ放送だけでも1つの家庭に周辺の電波塔から複数の電波が飛んで来ていて、その中から見たいテレビ局を選局しなければなりません。

ソニーは、アナログ放送の時代からテレビチューナーを作り続けています。上記のような電波環境の中できれいな画像を映し出すために、選局したいテレビ放送以外の電波(これを妨害波と呼ぶ)を取り除くことや、できるだけ波形が歪まないように受信し続けるような技術開発に常に取り組んできました。

歪みキャンセラ機能

そのうちの1つの例として、歪みキャンセラ技術があります。

テレビチューナーはテレビのアンテナ入力端子に繋がっており、アンテナから入ってきた電波=受信信号はアナログ信号ですので、そのアナログ信号を処理するアナログブロックがあります。さらにアナログブロックは妨害信号を除去するフィルタや所望の信号を増幅する増幅器、信号周波数を変換するミキサなどから構成されています。ソニーのテレビチューナーにはこの増幅器に、強い妨害信号により歪みが発生してもそれをキャンセルする歪みキャンセラ機能が搭載されています。

歪みキャンセラとは、アンテナより大きな電力の信号を受信した際に生ずる歪みを、同じ受信信号から生成した逆位相の信号と足し合わせることでキャンセルする技術です。

増幅器出力の信号波形で言えば、歪みキャンセラ機能が実装されていないと左図のようにつぶれた波形になってしまうところを、歪みキャンセラ機能を実装することで右図のような歪みのない波形を出力可能にします。

この技術により、大電力の妨害波と微弱な所望の信号を同時に受信しても、歪まずに受信し続けることが可能となります。


テレビチューナーとELTRESの関係

テレビチューナーは電波塔から各家庭へ飛んできた電波を受信するものですが、ELTRESはその逆で、各端末から受信局へ飛んできた電波を受信するものです。

下記がELTRES受信局の受信電力イメージ図です。受信局受信エリア内のELTRES端末1つ1つから大小様々な電力になっている電波を受信し、情報を取り出します。

ELTRES受信局が受信する電波の電力イメージ図

先の例でいえば、大きな声から小さな声まで同時に聞き取り、内容をそれぞれ理解することになります。

ELTRESの受信局には、ソニー製のテレビチューナー用LSIが使われています。ここには世界のテレビ放送を受信し、蓄積してきた技術がそのまま搭載されています。声の大小にかかわらず、内容を同時に聞き分け理解する、そのような技術を使っているのです。


まとめ

今後、IoTデバイス数は増加していきます。IoTデバイスは電波を送信するため、電波環境は混雑していきます。IoTネットワーク向けの受信局は、その混雑した電波環境の中で情報を正しく取り出すことを求められます。その時こそ、ELTRES受信局に搭載されたテレビチューナーの技術が威力を発揮すると信じています。

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