アドベンチャーレースでのELTRES活用事例a
アドベンチャーレースで通信性能を確認
2019年9月に正式サービスを開始したELTRESですが、2017年には開発中のELTRESの通信性能を確認いただけるようPoCキットをリリースしていました。
PoCキットを利用した実証実験は全国各地で実施してきましたが、今回は実証実験として最大規模となった、アドベンチャーレースのレーストラッキングについてご紹介いたします。
アドベンチャーレースは地球上で最も過酷なスポーツとも評されます。生死を賭けた挑戦ではありませんが、危険と隣り合わせの展開が連続するレースです。
選手の事前スキルチェックや危険個所での見守りなど、レース経験豊富な運営スタッフの高度な安全管理スキルのもと、大きな事故のないように運営されています。
ELTRESにお声がかかった理由
PoCキットをリリースして間もない2017年9月、一般社団法人アドベンチャーレースジャパンが招致した「アドベンチャーレーシング・ワールドシリーズ 」日本初開催となる【Adventure Race Japan 2018 in NAGANO】(ARJ 2018)として長野県北部~中部エリアでのレースを開催するにあたり、安全管理のためにELTRESを利用したいというお話が飛び込んできました。
当時既に、アドベンチャーレースの安全管理にはリアルタイムのGPS位置情報を使った「トラッキング」が必須となっていました。
海外のレースでは携帯電話ネットワークや衛星通信を利用したトラッキングシステムが多用されていましたが、当時は日本では衛星通信デバイスが使えなかったこと、レース候補地の長野北部は地形が複雑で携帯電話が使えないエリアが多いことから、それに代わる技術としてELTRESが向いているのではないかということで我々開発チームに相談が来たわけです。
長距離性能と安定性に優れたELTRESがフィールドで活きる
そうは言っても、「長野北部~中部に渡るレースコースを全域カバーしてください」という依頼にどう応えればよいのか?頭を悩ます日々が続きました。
長距離性能に優れたELTRESであっても、物理法則以上に電波が飛んでいくわけではありません。レースコース案を伺い、そのコースを広く見渡せて、かつ受信システムの機材を展開できる候補地をいくつかに絞り込み、電波伝搬シミュレーションを行い、時には長野まで赴き実際のコースを走っていただくフィールドテストを実施するなどを繰り返すうちに、ELTRESの長距離性能やそれまでは開発チームも実感できていなかった谷底や尾根の向こう側から反射・回折して飛んできた信号を受信できる実力などを実感できました。
トラッキングシステムへの展開
ELTRESによる通信が可能であるという目途が立つと、次は「トラッキングシステム」を実現するための端末・受信局・アプリケーション開発など具体的な計画に進みます。
年が明けた2018年初頭には、正式決定されたレースコースを基にフィールドテスト結果をフィードバックしてELTERS受信局リストを作成したところ、7局以上の設置が必要という結果となりました。
受信局はレース中のみの仮設ですので、有人での管理が必要です。限られた開発メンバの人員では、とても7局もの仮設局を同時運用できません。そこで、携帯電話エリア内では3Gネットワークを使用するトラッカーを併用し、位置情報をアプリケーションで統合することにしました。レースコースには曲がりくねった国道沿いの川をラフティングで下る区間があり、ここは入り組んだ地形のためELTRESでのエリアカバーが困難でしたが、幸い国道沿いはほぼ全域が3Gでカバーされていましたので、これでかなり受信局数を減らすことができました。
3Gでのトラッキングには、SORACOM様に協力をお願いし、「SORACOM Air」SIMと3Gトラッカーを提供いただくこととなりました。
また、SORACOMのプラットフォームには、複数のサービスを束ねる「SORACOM Beam」というサービスがあり、ELTRESと3Gのトラッキングデータはここで統合することとしました。
ELTRESは3Gエリア外の山岳区間でのトラッキングを担うことになりますので、改めて受信局の場所を検討し最終的に4局での運用とすることにしました。
そのうちの1局は、携帯がほぼ通じず電源も取れない山頂を選定しました。ここにはレースに協賛いただいたスカパーJSAT様に衛星回線を提供いただき、日本アンテナ様には電源が取れる電測車を出していただくとともに3日間のレース中は交代で受信局の見守りを行っていただくことにしました。
その他の場所は、レース事務局の皆様のご尽力もあり民宿や公民館、スキー場施設など安心して仮設できる場所を選定し、レース前日から受信局を稼働させることで限られたメンバでも4局を運用できる体制としました。
通信の確保には目途が立ってきたのですが、トラッキングアプリがまだ完成していません。過去のアドベンチャーレースで利用したアプリを改修するか、ELTRESの実証実験で使用したアプリをそのまま使うかなどいくつか案がありましたが、事務局からは「ワールドシリーズにふさわしい機能が欲しい」という高い要求もあり、頭を悩ませていました。山岳のトラッキングとして、博報堂アイ・スタジオ様が開発していた「Trek Track」を今回のシステムに統合していただくこととなり、リアルタイムの位置トラッキングの目途が付きました。残るは移動軌跡の表示のみですが、追加開発の時間はあまり残されていません。
パートナー協働によるスピード開発
そんな中、実証実験パートナーであったNSW様にご相談したところ、IoTプラットフォーム「Toami」の提供と、アプリ開発を申し出てくださいました。事務局からの要望を伝えると、Trek Trackと切り替えて使える2Dトラッキングのシステムを驚くほどの短期間で作り上げてしまいました。
こうして、ELTRESをはじめとするIoT技術を活用したARJ 2018の「トラッキングシステム」が完成したのです。
レース本番で感じた新しい価値
2018年6月15日から17日にかけて行われた3日間のレースでは、3分おきに送信される各チームの位置情報をもとに、運営スタッフの人員配置、山中に入って選手を撮影するカメラマンへの情報提供、レース中に行われる大会委員長に依るリアルタイムの解説など、トラッキングシステムが大活躍しました。夜間の解説動画撮影のためレース本部の近くにプロジェクターでトラッキング画面を投影したのですが、本部スタッフ含め全員の目がトラッキングに釘付けになり、ついには本部席がプロジェクター脇に移動してしまうことに。レース経験の豊富なスタッフにも認めていただけたのだと嬉しく思いました。
低体温症で動けなくなったチームが発生しましたが、その際にも救護スタッフが事前に近隣の道路で待機するなど、リアルタイム情報を基に効率的な運営が行われました。運営スタッフとの事前テストは一切行えなかったのですが、初めて見るトラッキングシステムを的確に使いこなすスタッフの安全管理スキルには感銘を受けました。
レースは夜間も連続して行われます。夜間に本部でシステムの見守りを行っていたときに、あるスタッフから、今までの不十分なトラッキングシステムの場合は、夜中に山中で道迷いが発生した場合は、景色の見渡せる朝になり、チームが移動しないと位置がわからず、遭難やトラブルがないか心配で仕方がなかったけれども、今回のトラッキングシステムでは道に迷っている様子が手に取るようにわかり、安心するとともに難しい地形で迷っている様子を見てより臨場感を感じられるようになった、という感想もいただきました。ともすれば事故にもつながりかねない道迷いイベントがスポーツの奥深さを教えてくれる大事な要素になったのです。IoTによる新しい価値を感じた瞬間でした。
3日間のレースはいくつかのトラブルもありましたが、選手には大きな事故もなく、無事に終えることができました。ゴールした選手も、惜しくも途中でリタイヤした選手もみな笑顔で、嬉しさや悔しさを満喫されていたような表情が印象に残っています。運営スタッフはレース経験者だけではなく、地元の方やメディア関係者と我々トラッキングシステム関係者含めて100人以上いたのですが、我々も含め、この活動を通して長野とアドベンチャーレースが大好きになってしまいました。イベント終了直後の記念撮影には、皆3日間の疲れを感じさせつつも、とびきりの笑顔で映っていました。
リモートでもリアルな体感
ITシステムというと、現実世界から一歩離れた抽象的な世界での出来事として捉えられることも多く、世の中の役に立っているという実感を得られることはそう多くないのですが、IoTによるトラッキングシステムはまさに現実世界とリアルタイムで直結された世界でした。リモートで画面に映し出される情報は山中のレースの状況を「今、そこにある現実」として緻密に表現していました。このシステムの構築に関われたことに感謝するとともに、今後も「ELTRES IoTネットワーク」を活用し、現実世界に寄り添うIoTシステムをどんどん実現させていけるようになれば、と考えています。
最後に
ELTRESは安定通信・長距離伝送・低消費電力・高速移動体対応・GNSS標準搭載の特長を生かして様々な業界でご活用いただいております。
【活用例】
・物流:移動車輛の監視
・環境モニタリング:溜池の水位監視
・インフラ監視:街路灯の電力監視と設置位置管理
・農業・畜産:放牧牛のトラッキング
・人の安全みまもり:CO2センサで「3密」を検知
・スポーツトラッキング:アドベンチャーレースでのトラッキング
・IoTプラットフォーム:温湿度、不快指数、安全管理、物流管理、獣害被害対策、見守り等
「興味がある」から「実際に活用方法を検討している」までどの段階でも構いません、お客様のご希望に合わせてお話しさせていただきます。
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