富士山での広域観測や長期観測の通信手段

ELTRESの長距離通信を活かせる代表的なシチュエーションとして、富士山が思い浮かびます。その中で、認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」から、ELTRESを活用しての共同実験のお話があり、色々な実験をしましたので、今回はその取り組みについてお伝えしたいと思います。

富士山測候所は、標高3776mの富士山最高峰の剣ヶ峰にあり、元々は気象観測所としてスタートしました。1932年から通年観測が始まり、職員が常駐する世界一高い観測所として活動していましたが、様々な観測技術の向上で2004年から無人観測が始まり、現在、認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」が気象庁からこの建物を借用して、夏期の期間に全国から400人の研究者が訪れて、山頂でしか得られないデータを観測しています。


富士山測候所の活動の課題

富士山測候所は、厳しい気象環境の為、人が活動できるのは、夏の2か月間だけであり、それ以外の期間は商用電源が使用できません。携帯電話回線もつながるかつながらないか程度です。したがって、測候所が閉鎖中の10か月間のデータは機器に保存して翌夏にまとめて取得して分析していたため、リアルタイムでの分析が難しい状況でした。衛星通信を用いて測定データを送る方法もあったのですが、かなりの個数の鉛バッテリーが必要で、コストと労力がかかるアプローチの為、一般の観測にはこの手法は使われていませんでした。


ELTRESの長距離伝送と低消費電力

そこで、ELTRESを活用した長距離伝送と低消費電力の仕組みで、リアルタイムモニタリングで課題解決を出来るのではないかと考えて、富士山の測候所を活用する会が計画した実験にソニーが協力し、富士山の登山者の安全確保の為に、行動中の位置をリアルタイムに可視化する実験も含めて、2018年度にELTRESの「登山時の位置把握」、「越冬連続送信」、の通信実験を行いました。
 登山時の位置把握は、夏季観測メンバーの荷揚げ・荷下げ時にELTRES送信機を搭載して、GPS(位置/高度)・温度・加速度を送信しました。約100km離れた複数の受信機で受信して、麓から山頂3,776mまで刻々と変化する高度や位置のデータをリアルタイムに把握することに成功しました。結果的に誰が登山で遅れているのか、どの標高まで到達したのかがリアルタイムで把握することができました。

図1 富士山の荷揚げ時の移動履歴の画面

越冬連続通信の取り組み

越冬連続送信は、富士山測候所の室内窓際にELTRES送信機を設置して、温度データの通信を行いました。10か月電池を交換できない環境の為、電池の活用がキーになりますが、送信機の電池には、単1型リチウム1次電池 LS33600(3.6V 17Ah)を用いて、低温での容量低下と冗長分を考慮して6本を並列接続しました。送信機は4か所に配置し、3分毎に測定した温度データを送信して、100km以上離れた東京都心を含む複数の受信局で受信を行いました。結果的に、2018 / 8 / 22に送信機を設置して通信を開始してから、冬場は-30度を下回る過酷な環境で1年間以上の連続通信を成功しました。

図2 測候所室内窓際にELTRES送信端末の取り付け
図3 送信機から実験受信局への通信
図4 夏期2018/9/6~9/13の測候所内4カ所の温度変化
図5 冬期2019/1/24~1/31の測候所内4カ所の温度変化

本実験で「登山時の位置把握」、「越冬連続送信」、が成功したことで、従来は観測が難しかった富士山の広域観測や長期観測の通信手段として活用できることがわかりました。


火山活動の見える化で防災

この結果を受けて、富士山測候所を活用する会に参加している東京都立大学、東海大学・静岡県立大学の研究にELTRESの通信が採用されて、2019年度には、火山センサーと接続した火山性ガス(SO2、H2S)のモニタリングと火山活動(地磁気センサー)のモニタリングが行われました。これらの研究による火山活動の見える化から、今後は登山者がとても多くなる夏季において,簡便なシステムにより山頂以外の多地点における火山ガスモニタリング観測を目指し,防災に生かせるように活用していくとのことです。

図6 越冬観測システム概略
図7 富士山頂越冬観測の測定結果

以上、この取り組みを通じて、今後ELTRESの長距離通信、低消費電力を活用して、日本全国の火山活動に起因する災害からの防災、減災に少しでも活用できればと考えております。


【出典】

富士山測候所を活用する会~第12回成果報告会 『ELTRES(ソニーのLPWA)の通信実験』

著者:ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 荒島謙治 尾花文一 青木孝行 北園真一 加藤伸雄 西出葵嘉
   東京学芸大学 鴨川仁


富士山測候所を活用する会~第13回成果報告会 『富士山頂での火山性ガスの越冬観測』

著者:首都大学東京 加藤俊吾 髙橋智樹 千島峻 辰巳紘奨
   静岡県立大学 鴨川仁
   富士山環境研究センター 土器屋由紀子  
   ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 荒島謙治 尾花文一 西出葵嘉


富士山測候所を活用する会~第13回成果報告会 『富士山でのポータブルガスセンサーを用いた火山性ガスの測定』

著者:首都大学東京 髙橋智樹 千島峻 辰巳紘奨 加藤俊吾
   静岡県立大学 鴨川仁
   富士山環境研究センター 土器屋由紀子 
   ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 荒島謙治 尾花文一 西出葵嘉


富士山測候所を活用する会~第13回成果報告会 『火山噴火予測のための富士山頂における地磁気観測:システム動作試験』

著者:東海大学海洋研究所地震予知・火山津波研究部門 長尾年恭
   静岡県立大学グローバル地域センター地震予知部門 鴨川仁


富士山測候所を活用する会~第13回成果報告会 『ELTRESを用いた富士山頂通年科学計測』

著者:首都大学東京 加藤俊吾
   富士山測候所を活用する会 加藤俊吾 鴨川仁 
   ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社 荒島謙治 
   静岡県立大学 鴨川仁


最後に

ELTRESは安定通信・長距離伝送・低消費電力・高速移動体対応・GNSS標準搭載の特長を生かして様々な業界でご活用いただいております。

【活用例】
・物流:移動車輛の監視
・環境モニタリング:溜池の水位監視
・インフラ監視:街路灯の電力監視と設置位置管理
・農業・畜産:放牧牛のトラッキング
・人の安全みまもり:CO2センサで「3密」を検知
・スポーツトラッキング:アドベンチャーレースでのトラッキング
・IoTプラットフォーム:温湿度、不快指数、安全管理、物流管理、獣害被害対策、見守り等

「興味がある」から「実際に活用方法を検討している」までどの段階でも構いません、お客様のご希望に合わせてお話しさせていただきます。
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