ELTRESで実現するCASE時代における新たな可能性、車載アンテナの枠を超えた新しい取り組み


原田工業株式会社

原田工業は車載アンテナと周辺機器の製造・販売を手がける企業として1947年に神奈川県で創業し、現在は東京都品川区に本社を構えています。
1957年に車載用ラジオ受信アンテナ「ロックアンテナ」を開発以来、国内外の自動車メーカーに広く供給し、高いシェアを獲得しています。また、海外市場の拡大にも取り組んでおり、現在では中国、ドイツ、アメリカなどに拠点を持っています。

原田工業株式会社 Webサイト

ソニー独自のLPWA 通信規格「ELTRES」は、長距離安定通信、高速移動体対応、低消費電力の特長を備えています。

原田工業株式会社と開発・製造した「Vehicle Smart Tracker For ELTRES」「フィルム型ビークルスマートトラッカー」はELTRES IoTネットワークを活用した製品です。「Vehicle Smart Tracker For ELTRES」はダッシュボード設置型の端末で、Bluetooth®機能を搭載し、各種センサー(アルコールチェッカー、タイヤ空気圧センサー等)との連携ができます。

Vehicle Smart Tracker For ELTRES 製品紹介

「フィルム型ビークルスマートトラッカー」は、フィルムアンテナを使用した車載専用LPWA通信端末として、世界初の製品(原田工業社調べ)で、「Vehicle Smart Tracker For ELTRES」と同様の機能を実装しています。今回は、ELTRES IoTネットワークを活用した原田工業株式会社の製品開発、ソニーとの取り組み、今後見据える未来についてお話しを伺いました。

フィルム型ビークルスマートトラッカー 製品紹介

※画像左から紹介(敬称略)
ソニーセミコンダクタソリューションズ 國近
原田工業 森
原田工業 平
原田工業 小林
原田工業 駒井

車載用アンテナの新たな可能性を広げる

森:

現在、自動車業界では「CASE」(Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化))という4つの大きな変革が進行しています。
この変革に伴い、業界の環境は変化し、弊社もアンテナ技術を活用して新しい取り組みを開拓するために、アドバンスドテクニカルセンターのメンバーと共に「新しい取り組みの可能性」を模索していました。

平:

私が所属するアドバンスドテクニカルセンターは、2019年に設立された研究開発拠点で、「CASE」に対応した次世代自動車関連技術の開発に取り組んでいます。通信規格全般を研究する中で、LPWAの「低消費電力」「広範囲な通信」「低速データ通信」という特徴が、弊社の事業と組み合わせるにあたって最も適していると考えました。

弊社は車載用アンテナを製造・販売していますので、これまで培ってきたアンテナ開発の技術と組み合わせてLPWAを有効に活用できないか、その可能性を検討していました。

数あるLPWAの中でELTRES IoTネットワークを選んだのは、時速100キロ以上の高速移動体にも対応できること、見通し100キロ以上の長距離通信ができること、消費電力が低いことが決め手でした。

総合企画部戦略企画室 森次長

ELTRES IoTネットワークを活用した車載端末の開発について

平:

当初、我々のアセットをフル活用し、フィルムアンテナを中心に製品開発の計画を進めていました。
しかし、ソニーから「ダッシュボード設置型車載端末」の企画提案を受け、フィルムアンテナの開発と並行してダッシュボード設置型の開発を先行させることにしました。

國近:

ELTERSで車輛管理ソリューションの構築を考えていた時、必要になる実機は非常に厳しい品質要求があり、それは走行時の振動や、真夏の駐車時の高温車内環境、真冬の極低温環境など、そうしたことに対応できる設計や製造ができる企業は数少なく、原田工業様に期待を持っておりました。

森:

弊社はこれまでOEM向け機器の開発に携わってきました。
そのため、車載端末プロジェクトの提案を受けたときは、これをチャンスと捉え、新たな挑戦に乗り出すことを決意しました。
しかし、従来の開発は2〜3年の期間を要していましたが、今回のプロジェクトではスケジュールが既に決定されていたため、量産開始までの期間はわずか9ヶ月という制限された期間内での取り組みがスタートしました。

小林:

限られたスケジュールで開発を進めるため、ソニーとの定例ミーティングを重ね、従来のウォーターフォール開発ではなく、トライアル&エラーを共有しながら、短期間で進行するアジャイル開発を採用しました。
デザインの設計段階からソニーの開発チームと一緒にプロジェクトを進めることができたため、多くの刺激と学びがあり、大変勉強になりました。

國近:

走行中の安定通信を実現する内部アンテナの配置も考慮した実機のデザインは機能性だけでなく、多くの車種のダッシュボードにも違和感なく設置でき、どんな車でも車内内装を損なわないものに仕上がっています。
ダッシュボード設置型のVehicle Smart Tracker For ELTRESはユーザー様からも大変好評です。

駒井:

弊社はこれまでデジタル部品の経験が少なかったにもかかわらず、内部基板の開発でELTRESのモジュールは扱いやすく、開発途中の機能追加にも柔軟に対応できました。
さらに、ソニーの開発チームと連携することで、不明点についてはすぐに質問し回答を得ることができ、スムーズに作業を進めることができました。

森:

車載端末プロジェクトは、新規事業として初めて行う作業が多く含まれていました。
しかし、アドバンスドテクニカルセンターの各技術領域メンバーがお互いをよく知っているため、モチベーションを高く保ちながら期限内に開発を進めることができたと感じています。

Vehicle Smart Tracker For ELTRES
フィルム型ビークルスマートトラッカー

課題を乗り越え、チームワークで成し遂げた製品開発

平:

先行したダッシュボード設置型のVehicle Smart Tracker For ELTRESの開発、量産化の目処が立ったところで、並行して進めていたフィルム型端末の開発に本腰を入れました。

國近:

ユーザー様のヒアリング結果から、実機は簡単に取り外しを行いたいというニーズと長期固定で使用したいニーズと大きく2つの利用シーンが想定できておりました。そこで、当初から2つの製品開発をすることを決めていました。

ダッシュボードに設置するVehicle Smart Tracker For ELTRESは、USBポートから電源を供給します。これにより、取り外しが容易に行えます。
ウインドウに貼り付けるフィルム型ビークルスマートトラッカーは車輛の常時電源から直接電源を供給します。これは長期固定向きで、簡単には外せません。

また、2つのモデルは、共通のペイロード仕様になっており、同じアプリケーションで利用することが可能です。これは利用シーンに合わせ、ユーザーが任意のタイミングで実機の取り替えができる大変便利な仕様になっております。

森:

同時並行して開発を進めていた結果、フィルム型端末も短期間で量産体制を整えることができました。
しかし、プロジェクトを進める中で仕様変更もありましたが、ダッシュボード設置型の開発経験とソニーの協力によりスムーズに進行することができました。

小林:

当初はコネクタタイプで開発を進めていましたが、開発途中で仕様変更をしました。
変更の背景として、実際の利用シーンを考えると、電源線をバッテリー直結にして、容易に外せないコンセプトとし、12~24Vまで対応可能な電源ユニットとすることで乗用車からトラックまで多くの車種のニーズに対応でき、最も狙ったコンセプトに適していると考えたためです。

駒井:

設計変更後は、量産に向けて工場側と調整を行い、スケジュール期限ギリギリまで試行錯誤を重ねて開発を進めました。
製品の大きさを変更することはできなかったため、コネクタを予定していた部分をどのように電源ラインに変更するかを考え、工場側と密に連携し、チーム一丸となって取り組んだ結果、期日に間に合わせることができました。

小林:

車業界の変化に対応するために、弊社は新規事業として車載端末の開発に取り組み、製品の量産化を実現しました。この経験はチームの結束力を高め、フィルム型端末の開発にも活かされました。

アドバンスドテクニカルセンター 小林係長

國近:

新しいことに挑戦することは非常に勇気がいると思います。
しかし、原田工業様のメンバーが高いモチベーションで製品開発に取り組んだ結果、ダッシュボード設置型やフィルム型端末の製品開発を推進することができたと感じています。

平:

弊社は、元々車載アンテナのエンターテインメント用途からカーコネクティビティ機能を強化して成長してきました。
主要製品である車載用アンテナは、自動運転時代を見据え、インテリジェント型への進化が市場から求められていると考えています。今回の取り組みは、弊社が目指す未来への大きな一歩となりました。

森:

当初はLPWAを活用した製品開発を進める方法を探りながら、どのように開発を進めて良いかわからない状態でした。
しかし、ソニー、ELTRES IoTネットワークとの出会いを通じて、両社の強みを組み合わせ、弊社がこれまでに育ててきたアンテナ開発技術を活用することで、製品開発に前向きに取り組むことができました。
これが開発成功の大きな要因だと考えています。

フィルム型ビークルスマートトラッカー

課題解決と新たな事業創出

平:

今回の取り組みで、「視点」が大きく更新されたと感じています。
これまで車載用アンテナに焦点を当てて事業を展開してきましたが、新しい挑戦の第一歩を踏み出したことで、視野が広がり、思考が変わったと感じています。

森:

例えば、日本では高齢化や過疎化が進行し、移動に困難を感じる人が増えています。
この問題を解決するためには、公共交通機関の整備や自動運転技術、MaaS(Mobility as a Service)などの新しい技術を活用した移動支援施策が重要です。

今回の成功事例を基に、弊社の技術とELTRES IoTネットワークを活用し、新しい取り組みに対して変化を恐れず積極的に可能性を探求したいと考えています。

平:

私たちはELTRES IoTネットワークの存在を多くの皆様に認知していただき、あらゆる分野で活用される「インフラ」のような存在になってほしいと願っています。
一緒に目標を達成するために、今後も取り組みを続けていきたいと思っています。

写真左からアドバンスドテクニカルセンター 平センター長
アドバンスドテクニカルセンター 駒井氏
アドバンスドテクニカルセンター 小林係長
発売前のアンテナ製品を実験する大型電波暗室にて

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