高度理系人材の輩出に向けて!AI・IoT教材を活用する理系大学院の事例

北海道千歳市では、国家プロジェクトでもあるRapidus株式会社の次世代半導体工場の建設が進められています。半導体などの先端技術の集積により、千歳市に対しては技術産業のハブになることへの期待が高まっており、千歳市内を拠点とする公立千歳科学技術大学に対しても高度理系人材の輩出への期待が寄せられています。

その公立千歳科学技術大学の大学院課程では、高度理系人材の育成への取り組みの一つとして、「動かして学ぶIoTとAI」(以下、CLIP学習教材)の活用が行われています。
CLIP学習教材は、ELTRESのパートナー企業である株式会社クレスコから提供されており、IoT・AI・クラウド・データ通信を包括的に学ぶことができ、理系人材が社会課題に目を向けて解決力を養うことを目指しています。

CLIP 学習教材「動かして学ぶ IoTとAI」

CLIP学習教材を用いた取り組み内容などについて、公立千歳科学技術大学 理工学部 学部長 吉本教授からお話を伺いました。

吉本教授と学生

吉本教授が考える、高度理系人材の育成について教えてください

経済産業省の理⼯系⼈材育成に関する分析で「イノベーション創出を担う高度理系人材(特に博士人材)の育成が急務とされる一方、これまで大学で育成された人材は特定専門領域に特化する傾向があり、産業界からは幅広い視野・視点や社会的実践能力の不足が懸念されている」とあるように、一般的に理系人材は専門知識を深く掘り下げる傾向がありますが、知識を深めるだけでは、複雑な要素が絡み合う社会問題を解決に導けません。

社会課題を解決するにも、実社会では様々な制約の下でアイデア・結論を出すことが常に求められます。広い視野で社会課題を解決に導ける高度理系人材を育てるためには、他学部・他大学の学生や、社会人と交わることが必要と考えています。

吉本教授

高度理系人材を育てるための具体的な取組みを教えてください

本校の大学院は、理学領域と工学領域を集約させて狭い専門領域のみにとらわれない人材育成を目指しており、専門領域の異なる学生が集まる「交流実験科目」を設けています。

その交流実験科目でCLIP学習教材を用いて、AIやIoT に関するPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)を行っています。交流実験科目の場で、学生の視野を広げて柔軟な思考力を育くみ、CLIP学習教材を用いて技術への理解を一定に高め、PBLによって社会課題の解決への意識を養うことができると考えています。
しかし、PBLを授業に取り入れるのは簡単ではありません。

PBL授業をどのように進めているか教えてください

PBL授業には、一般的に以下のような難しさがあります。

PBL授業の難しさ

  • 学生が自分で課題を定義して解決策を見つけることが求められるが、簡単にアイデアを出せるわけではない。
  • 通常の講義形式の授業よりも時間が掛かり、限られた授業時間内で課題解決案を練るためには、適切な時間配分と計画が求められる。
  • 教員は学生の課題解決の内容に応じて適切なタイミングでサポートする必要があり、介入しすぎると学生の自主性が失われ、介入が少なすぎると進行が滞る。

これに対して色々な方法論があると思いますが、私のPBL授業は次のような進め方で学生への指導を行っています。

公立千歳科学技術大学の大学院課程での指導方法

  • 交流実験を、理学領域と工学領域の学生が交わり、彼らが専門知識を持ち寄って様々な意見交換からアイデア創出に繋がる場として位置付ける。
  • 学生には身近な社会課題の解決モデルをつくることをゴールとして設定する。
  • 学生がグループで課題解決に取り組み、役割と責任を明確にして、プロジェクトを計画的に進められるように指導する。
  • 学生にプロジェクトの進捗報告を実施させ、必要な場面でヒントを与えつつ、学生自らが考える指導を行う。

その上で、交流実験科目でPBL授業を行うにはCLIP学習教材が必要不可欠でした。
理学領域の学生でもすぐにAIやIoTの基本的な技術を学べて、工学領域の学生と同じ目線で議論ができるように、CLIP学習教材は“理解しやすい”テキストや“すぐに動かせる”サンプルソースが用意されています。理学領域の学生は情報工学の視点を持って社会課題の解決に向けたアイデアを考えられるようになります。

一方、工学領域の学生は、理学領域の学生が日頃向き合っている環境や材料といった分野の潜在的な課題解決へのニーズに早い段階から触れ合うことによって、自分たちの強みである情報技術を活かす視野を拡げることができます。
工学領域の学生だけでは考えられなかった課題認識とそれを解決するアイデアが生まれ、理学領域の学生だけでは達成できなかった情報技術を活用した解決モデルの実装が、CLIP学習教材があることで実現します。

CLIP学習教材の今後の活用余地ついて教えてください

CLIP学習教材の活用を全学的共通教育の基盤としてスケールさせたいです。

これまで工学領域と理学領域の学生が交流できる大学院課程の交流実験科目で試験的に活用してきて、教育上の有効性は確認できました。次のステップとして、数理データサイエンス・AI教育の一環として、初年次からの全学的共通教育への導入を模索しています。

また、周辺の文系大学との科目交流の場で、理系・文系の垣根を越えた活用も既に視野に入れています。文系の学生は理系の学生と異なり、解決すべき課題やソリューションに焦点を当てる傾向にあります。本校は理系に特化していますが、社会に出れば文系人材と連携して商品・サービスの企画、ソリューションの検討を行う機会もあるでしょう。CLIP学習教材は、AIやIoTに関する理系学生と文系学生の間にあるギャップを埋め、双方を結びつけて、共通の言葉で議論できるプラットフォームのような役割を果たしてくれると考えています。

公立千歳科学技術大学について教えてください

公立千歳科学技術大学は、「理学」と「工学」を融合し、科学技術の新たな可能性を見出すことを目指した理工学部を持つ公立大学です。
情報通信技術 (ICT) をはじめとする幅広い分野の教育と研究を通して、高い知性と人格を備えた人材を育成しています。
また、公立大学として「地域社会における知的・文化的観点としての中心的役割を担う大学」を目指し、地域連携にも力を入れています。
公立千歳科学技術大学Webサイト

お問い合わせ

お問い合わせ内容によっては、ご回答までにお時間をいただくことがございます。
何とぞご了承ください。