横須賀ハイブリッドLPWA基地局での海上通信実験
ELTRESの長距離通信を活かせるフィールドとして、海や山のように携帯電話の電波が届きにくいエリアに注目しています。前回のELTRES開発チームのブログでは山での通信という観点で富士山での取り組みを紹介しましたので、今回は海での通信実験を紹介します。
海での長距離通信実験は、一般社団法人YRP研究開発推進協会(以下、YRP協会)が提供する“横須賀ハイブリッドLPWAテストベッド”を活用して実施しました。
※横須賀ハイブリッドLPWAテストベッドについて
YRP協会が、総務省と経産省が推進している国内の「IoT推進コンソーシアム」傘下の「スマートIoT推進フォーラム テストベッド分科会」と連携し構築を推進しているもので、特定ベンダーに依存しないパブリックな立場かつ一般的なIoTユーザー視点から、LPWAの各方式を評価できる環境です。ELTRESも参加・協力しており、YRP地区で実験ができます。
海上での長距離通信実験の方法
横須賀ハイブリッドLPWAテストベッドのYRP地区では、図1のようにYRP(横須賀リサーチパーク)センター1番館の屋上にハイブリッド受信局があり、ELTRESのテスト用受信機もここに設置されています。海抜約110mの位置にアンテナがあり、南東の房総・館山の方向に向かって眺望が開けています。この環境を活用して、YRP協会のご協力の下、テストベッドに参画している他方式LPWAの皆様と協力して海上での長距離実験を行うことにしました。
実験方法
海のユースケースとして、
救命胴衣(海難事故・落水事故の捜索救助)
海上上ブイ(養殖筏の環境モニタリング)
小型船舶向け簡易識別装置
などを想定しており、実験ではこれらを模擬し、海面から0cm/50cm/1.5mの高さから送信した場合、通信距離がどのようになるのかを見ることにしました。
ELTRES送信端末および各LPWAの送信端末を、図2のように防水ケースに収納し、海面0cmと50cmになるようにポールに固定し、そのポールを実験船の艫に取り付けました。海面1.5mの場合は、実験船の甲板に取り付けました。
航路は、小網代港を出港してYRPからの見通しになる久里浜沖に移動、そこから浦賀水道をまっすぐ南下し、光学見通し限界=水平線を越えての通信限界まで航行してから帰港するというものです。
シミュレーションによる予測は図5になります。
このシミュレーションは、受信点の高さを110m、送信点の高さを地面/海面から1.5mとし、自由空間減衰・2波モデルを使い受信点におけるRSSIを計算して色分けしたものです。
赤色:-110dBm
桃色:-120dBm
黄色:-130dBm
緑色:-140dBm
水色:-150dBm
となっており、水平線以遠では回折ロスによりRSSIが急激に低下することがわかります。ELTRESの受信感度は公称-142dBmですので、緑の場所までは通信できることが期待されます。
水平線を越えて通信できるのか
実験結果
図5のピンクの線は、実際に航行した軌跡です。海面1.5m=甲板に取り付けたELTRES送信端末からは、ピンク色の線のどこからでも通信できていることを確認しました。事前のシミュレーションと比較的合致しており、水平線を越えても通信でき、かつシミュレーションでRSSIが-150dBmと計算された場所からも通信できたことになります。
図6に海面から50cmと0cmの場合の通信結果を示します。緑の丸が通信できたことを表しています。送信点の高さが低い場合は、境界面(地面・海面)での反射波と直接波の合成で電波が打ち消されるため、水平方向への電波は飛びにくくなり通信距離は短くなります。
もう少し詳しく分析したものを図7・8に示します。海面から1.5mの送信に比べて通信距離は短くなりましたが、50cmの場合は水平線まで通信成功率は100%でした。0cmの場合は、最長距離は50cmの場合と比べてあまり差はないものの、水平線の手前でも通信の欠落がありました。水平方向への電波が飛びにくくなっていることに加えて、波の上下動により電波が遮られたことによるものと推察されます。
漁業やマリンレジャー等でも活躍
このように、ELTRESは海でもその通信性能の高さを確認できました。実験当日は天候に恵まれ、波の高さは1m程度と穏やかな条件での実験でしたが、この結果はユースケース検討の参考になると思われます。
養殖や漁業、マリンレジャーなどに幅広く活用されることを期待しています。
最後に
ELTRESは安定通信・長距離伝送・低消費電力・高速移動体対応・GNSS標準搭載の特長を生かして様々な業界でご活用いただいております。
【活用例】
・物流:移動車輛の監視
・環境モニタリング:溜池の水位監視
・インフラ監視:街路灯の電力監視と設置位置管理
・農業・畜産:放牧牛のトラッキング
・人の安全みまもり:CO2センサで「3密」を検知
・スポーツトラッキング:アドベンチャーレースでのトラッキング
・IoTプラットフォーム:温湿度、不快指数、安全管理、物流管理、獣害被害対策、見守り等
「興味がある」から「実際に活用方法を検討している」までどの段階でも構いません、お客様のご希望に合わせてお話しさせていただきます。
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